『荘子』外物篇より ※1
筌者所以在魚 得魚而忘筌 筌(せん)は魚を在(い)るる所以(ゆえん)なり。魚を得て筌を忘る。
蹄者所以在兎 得兎而忘蹄 蹄(てい)は兎を在(い)るる所以(ゆえん)なり。兎を得て蹄を忘る。
言者所以在意 得意而忘言 言は意に在(い)るる所以(ゆえん)なり。意を得て言を忘る。
吾安得夫忘言之人而與之言哉。 吾安(いず)くにか、夫(か)の言を忘るるの人を得て、之を言わんや。
<訳>
魚を捕まえてしまえば(魚を獲る)筌(編籠の罠)のことは忘れてしまうものである。
兎を捕らえてしまえば蹄(罠)のことを忘れてしまうものである。
言葉も意味を捉えるための道具である。意味を捉えた後の言葉は忘れてしまうものである。
私はそのように言葉を忘れることの出来る相手を探してともに語りたいものだ。
忘蹄庵は茶事懐石教室と建築設計室という一見脈絡のない組み合わせからなるように見えますが理念は同じです。
道具あるいは所作があっての茶の湯の世界で、それに溺れることなく精神を研ぐこと。
形があって始めて成り立つ建築に、形ではなくて中身なのだと受け入れること。
そのような戒めの気持ちを込めて「忘蹄庵」としました。
※1 荘子(紀元前369〜286年)中国の戦国時代の思想家。道教の始祖の一人。『荘子』(そうじ)は荘子の著書